2006年11月16日

牧野富太郎 『植物一日一題』

牧野富太郎(1862 - 1957)
牧野富太郎(1862 - 1957)

しかしこの花(ヒマワリ)はこの文(『秘伝花鏡』の「向日葵」項)にあるように日に向かって回ることはけっしてなく、東に向かって咲いている花はいつまでも東に向かっており、西に向かって咲いている花はいつまでも西向きになっていて、敢て動くことがない。ウソだと思えば花の傍に一日立ちつくして、朝から晩まで花を見つめておれば、成るほどと始めて合点がゆき、古人が吾らを欺いていたことに気がつくであろう。しかし花がまだ咲かず、それがなお極く嫩(わか)い蕾のときは蕾を持った幼嫩(ようどん)な梢が日に向かって多少傾くことがないでもないが、これは他の植物にも見られる普通の向日現象で、なにもヒマワリに限ったことではない。しかしとにかく世間では反対説を唱えて他人の説にケチを付けたがる癖があるので、このヒマワリの嫩梢が多少日に傾く現象を鬼の首を取ったかのように言い立てて、ヒマワリの花が日に回らぬとはウソだというネジケモノが時々あるようだが、しかしついに厳然たる事実には打ち勝てないで仕舞いはついに泣き寝入りサ。
+ + +

中学校には『牧野植物図鑑』が何冊もあって、よくパラパラ見ていた。ちょうどその頃、荒俣宏が徐々に活動し始めていて、博物学ブームを巻き起こす直前くらいだったと思う。いまでこそ「ボタニカルアート」とかいう用語もあるけれども、当時そういう目で図鑑類を読むなんてことは少なかったように思う。

『植物一日一題』は、牧野富太郎84歳の頃に書いたエッセイ集。彼は小学校中退という学歴しかもたなかったために、高名なわりには長く不遇であった(博士号を得たのは65歳の頃である)。そのためか、学界の誤りを正すのに仮借ない言葉を使っていて、その苛烈さがむしろ痛快だったり。
それに、やはり明治時代に活躍した人の博識は驚異的だとも思う。牧野博士は単なる自然学者ではなく、「名物学」的な漢籍考証までも行っている。おもしろい。

数年前『牧野植物図鑑の謎』という本が出版されて、面白く読んだ。一部で牧野批判も起こったけれども、たいがいは的外れではないか。ラテン語の素養が無かったとか、英語が書けなかったとか、『大言海』の悪口を言ったとか、小野嵐山を批判したとか、そんなことは実に瑣末なことだ。(ちなみに、この本には小野嵐山へ無条件なオマージュを捧げている項がある。)
そもそも『牧野植物図鑑の謎』は、牧野批判の書でもないし。

あ、そうだ。牧野博士は「馬糞蕈」の項にこんな戯れ句を書いている。楽しいので引用しておく。マグソタケはその名の通り馬糞の上に好んで生えるキノコらしい。しかも名のわりに食用とも。

食うときに名をば忘れよマグソダケ
その名をば忘れて食へよマグソダケ
見てみれば毒ありそうなマグソダケ
恐はごわと食べてみる皿のマグソダケ
食て見れば成るほどうまいマグソダケ
マグソダケ食って皆んなに冷かされ
家内中誰も嫌だとマグソダケ
嫌なればおれ一人食うマグソダケ
勇敢に食っては見たがマグソダケ
牧野富太郎 『植物一日一題』植物一日一題
牧野富太郎

単行本: 275ページ サイズ (cm): 19cm B6
博品社
1998-04-25
ASIN: 493870661X


俵浩三『牧野植物図鑑の謎』牧野植物図鑑の謎
俵浩三

新書: 182ページ
平凡社新書(平凡社)
1999-09
ASIN: 4582850170
by G-Tools

 
ラベル: 読書 図鑑 植物
posted by Dr.DubWise at 00:54| Comment(0) | TrackBack(0) | words | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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