2006年12月14日

宇宙開発の未来予想図。

Ariane 5(欧州)
Ariane 5(欧州)

前々回のエントリーに引き続いて宇宙開発の話。

OECDの報告書『スペース2030―宇宙利用の未来探査』は国際情勢の推移を3つのパターンに分け、それぞれについて今後30年間の宇宙開発を予測している。
宇宙開発のかたちは、経済状況と国際情勢によって異なる。軍による宇宙開発が先行するのか、商業ベースでの開発が先行するのか。まずOECDのアナリストたちは以下のようなシチュエーションを提示している。

1.順調な航海
国際機関の好意的な指導のもとで世界全体が秩序を保ち、自由市場と民主主義が、しだいに国家機関が容認する一般的なモデルとなる。

2.バック・トゥ・ザ・フューチャー
このシナリオでは、主に3つの経済大国が世界を支配している。米国、欧州、中国である。

3.荒れ模様
主要な大国間での根強い意見の相違は、徐々に国際機関を衰退させていくだろう。国際的な場面における内政干渉への厳しい批判の対応策として、米国はしだいに一方的な行動が増え、米国の重大な利益を脅かしているという名目では正当化されないすべての軍事活動から撤退する。
1は、グローバリゼーションが世界の唯一の規範として浸透した世界である。イニシアティヴをとるのは国際機関であり、徐々に国民国家が役割を終えつつある。しかし、テロはいまだに大きな安全保障上の脅威であり、同時に環境問題に対する関心が高まる。資源探査、海洋調査などの需要も大きい。

2は、アメリカ・欧州ブロックと中国・ロシアブロックが対立する世界。ふたたび世界は冷戦構造を形成し、NATOが強化される。地域大国化したインドやブラジルも、南アジアや南米で大きな影響力を持つ。環境問題への取り組みは低調で、異常気象による天災が多発する。

3は、アメリカが唯一の超大国であるが、新モンロー主義とも言えるような超保守主義に基づく消極的な外交によって、国際機関が機能不全状態にある世界。民族紛争、分離独立運動が世界各地で頻発し、テロも横行する。環境問題が悪化し、飢餓や天災、新たに出現する疫病が戦争以上に脅威となる。

Delta U(アメリカ)
Delta U(アメリカ)

実際にはどのシナリオをたどるのだろうか。1と2の中間が現実的な未来といえるだろうか。
おそらく、宇宙関連企業が軌道上および地上に民間宇宙基盤をさらに増加させようとするはずだ。米中関係が緊張し軍の発言力が増せば、この動きは牽制されるだろう。
ともあれ、今後30年間で以下の宇宙産業が採算ベースにのる可能性が高い。

1.通信教育:遠隔医療
2.電子商取引
3.娯楽
4.位置情報の消費者サービス
5.位置情報サービス:交通管理
6.土地利用:精密農業
7.土地利用:都市計画
8.土地利用:探査(石油など)
9.災害防止および管理
10.環境利用および気象学
11.条約・規格・政策などの実施の監視
12.宇宙観光・冒険旅行(準軌道および軌道)
13.軌道上サービス(衛星のハード補修やソフトのバージョンアップ、デブリの除去など)
14.電力リレー衛星(主にマイクロ波を使ったリレーション)
米中関係がそれほど悪化しないのであれば、ISSや民間主導で投入される実験衛星およびステーションで、微小重力下での新たな素材開発などが行われるだろう。

相変わらず月面開発や火星への有人探査などは、国家のモチベーションのための事業として行われる。少なくとも今後30年程度では、月面開発の採算が取れる目途はまったく立たない。月面のような他天体で恒久的な活動をするためには原子力以上のエネルギー源(アナリストの中には核融合発電を提案する者もいるが、さすがに荒唐無稽だ)が必要であるが、国際情勢が安定しなければ、これが大きなネックになるだろう。

ナノ・テクノロジーの進歩によって、奇想天外な構想にも実現の目途が立つかもしれない。たとえば軌道エレベータのような大規模輸送システムは意外に安価に建設出来る可能性がある(核融合発電システムの開発と月面での建設費よりも安価に、という程度の意味だけれども)。素材(ダイヤモンド以上の強度を要求される)の開発さえ目途が立てば、だ。

ガリレオ計画
ガリレオ計画

さらに、今後新たな衛星群による測位/通信網が再構築されるだろう。
たとえば、現在、欧州宇宙機関が進めているガリレオ計画は2008年から実用化される。その内容は欧州宇宙機関のリリースによるとこのようなものだ。

ガリレオ計画とは、欧州委員会の発案に基づき開始された欧州独自の衛星による無線航法(ナビゲーション)計画であり、通信、環境、農業、水産業等の分野における新世代のユニバーサルサービスの開発を確実にもたらすものである。同計画は、民用目的の衛星ナビゲーションにおけるグローバルスタンダードとなり、米国のシステムとの間には完全な相互運用性が確保される。
もう少し詳しく解説すると、以下のようになる(「現代中国ライブラリィ」より)

ガリレオはEU独自のGPSシステムである。2002年3月、バルセロナのEU首脳会議によって計画推進が合意されたが、その後の各国の意見対立などもあり、今年5月、欧州宇宙機関(ESA)加盟15国がガリレオ計画の始動で最終合意し達した。2006年から30基の人工衛星を順次打ち上げ、2008年には稼動を始める予定。30基の衛星は上空約2万4000キロを周回、1メートル以内の精度をもつとされる。軍事利用のため民用が制約されている米国のGPSの誤差36メートル以下よりも性能は上回る。
実はガリレオ計画には中国も参加している。日本はアメリカのGPSシステムに完全に依存しているために、ガリレオ計画に参加していない(というよりも無視している)。これは危険なことで、システムの詳細は省くが、おそらく今後、ガリレオ計画が測位システムのワールドスタンダードになっていくのではないかと思う。日本のシンクタンクの論文を検索してみても、ガリレオ計画に言及しているものは少ない。経済界はこの計画をもっと注目してよい。

ガリレオ計画では30基の衛星をMEO(中高度軌道)に配置することになっている。
かつてのイリジウム計画は77基をMEOに投入する予定だったし、テレデジック計画(ビル・ゲイツも関与した衛星によるインターネットサービス)はLEO(低高度軌道)に840基(その後MEOに288基に変更)配置する予定だったが、当然破綻した。

イリジウムやテレデジックとガリレオ計画の違いは、十分な採算性だろう。イリジウムやテレデジックは、ITバブルの熱狂の中で生み出された、マーケティングを無視した巨大プロジェクトだった。だからバブルの終息とともに計画も尻すぼみになってしまった。
だがすでにアメリカのGPSシステムを見ても分かるとおり、衛星による測位システムはすでに巨大な市場を形成しており、今後も拡大が予測される。しかもガリレオ計画は、単に測位システムというだけではなく、精密農業や資源探査も視野に含めた汎用性をウリにしている。採算性は大きく保障されているといえるだろう。

HU-A(日本)
HU-A(日本)

電脳化が進み通信の秘匿性が重要になってくると、これまでインターネットを介していた通信も、P2Pのために衛星を利用することも行われるようになるだろう。遠隔医療も、単に診断だけではなく手術の介助を衛星を介して行えるようになるはずだ。従来のネットではタイムラグが問題となるが、LEO衛星でリレーすればラグは縮小される。
さまざまな用途で、特にLEO/MEO衛星は必要とされることとなるだろう。ガリレオ計画以降もLEOおよびMEOに衛星群を投入する計画は逐次現れると思われる。

打ち上げロケットの信頼性が増すことで、計画から実際の配備運用まで、スピードも上がる。また、衛星の小型化や、アリアン、デルタ、プロトン、HU-Aなどのロケット打ち上げコスト低減が進み、衛星事業全体のコストが下がるはずだ。これまでさまざまな不確定性(ロケット打ち上げの失敗、景気の循環、国際情勢等々)と、ひとつひとつのプロジェクトの巨額さから経営が不安定になりがちだった。ということは軍の宇宙計画に経営を依存せざるをえなかったということだ。
宇宙産業が、真に民間産業に移行するのが、これからの30年だといえるだろう。

+ + +

ニュータイプの出現も、木星ヘリウム公社も、カリストの独立も、惑星間経営機構の成立もまだまだ遠い。けど、夢は見れるさ、十分に。

OECD編『スペース2030―宇宙利用の未来探査』スペース2030―宇宙利用の未来探査
OECD編
柴藤羊二・柴藤良子訳

220ページ
技術経済研究所
2006-08
ASIN: 4906445241
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posted by Dr.DubWise at 00:40| Comment(0) | TrackBack(0) | cahier | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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