2006年12月08日

あんた、でかすぎ――市川崑『犬神家の一族』

市川崑『犬神家の一族』(2006・日)

市川崑監督の『犬神家の一族』をRKBさんの試写会で観る。
「素晴らしい!」と言いたいところだけど、率直に言って旧作には及ばない。完全に衰弱してしまった感が強い。まったく残念なことだけれども。(以下ネタバレ多々あり、注意。)

石坂浩二も加藤武もすっかり歳をとってしまい、とくに石坂には「天から来たみたい」な金田一耕助の透明感がもはやない。
じゃあ、若手はどうだったかといえば、尾上菊之助の爬虫類顔にぼくはなじめず(ただ、マスクをかぶったときの、あのヘビのような目の存在感は良し)、ヒロイン松嶋菜々子の大根役者っぷりと着物の似合わなさに萎え萎え。そもそも松嶋菜々子(身長173.8cm、wikipediaによる)の巨大さはどうだろう。身長が155cmしかない奥菜恵と並べて出したらイカンでしょう。

むしろ端役のアマチュア役者たちのほうが印象的だったりする。木久蔵師匠と中村玉緒(このひとは職業俳優だけど)の掛け合いの絶妙さ。1960年代のコメディ映画を観ているみたい。ほんのワンシーンかそこいらの出演だけど三谷幸喜もちょっといい。奥菜恵がぶっ倒れるシーンもいい。

ただ富司純子はすごいです。(尾上菊之助は彼女の実の息子だからこの作品は親子競演ということになる。かつ、寺島しのぶの母でもある。)
ラスト、金田一との緊迫感溢れる対話。富司の落ち着き払った顔が驚愕の表情へと瞬時に変わる。フラッシュバックする父(仲代達矢)の顔と富司純子の顔、石坂浩二の顔、つぎつぎに挿入される顔(表情)の氾濫。まさに映画的なショット。旧作に引き続いて長田千鶴子による編集が効いている。

ついでにちょっとマニアックなこともメモしておく。
調色は70年代的。ひょっとしてフィルムはデッドストックな古いものを使っているのか?? フィルタも多用しているっぽい。

市川崑『犬神家の一族』(2006・日)

市川崑監督って、もう91歳なんだよね。日本では現役最高齢の映画監督ではないだろうか。
90歳超の高齢監督というと、ポルトガルのマノエル・ド・オリヴェイラが思い浮かぶけれども、オリヴェイラと市川崑ってのは、ずいぶん創作の姿勢が違う。オリヴェイラはこの年齢にして1年に1本のペースで撮り続け、しかも作風をすべて変えてくるというアグレッシヴさ。1999年の『クレーヴの奥方』と2002年の『家宝』じゃ、まったく志向性が異なっている。にもかかわらずオリヴェイラだと一目で分かるのは何故か。

市川崑は良くも悪くもスタイル先行な作家だ。市川崑マニエリスムは、1976年から79年にかけての金田一シリーズ(『犬神家の一族』『獄門島』『女王蜂』『悪魔の手毬唄』『病院坂の首縊りの家』)で練られ、『細雪』(1983年)でついに完成する。市川自身は『竹取物語』(1987年)や『四十七人の刺客』(1994年)でそのマニエリスムを捨てようとするも失敗、ふたたびマニエリスムに戻るために『八つ墓村』(1996年、トヨエツが出ていた例のアレ)を撮るがさらに華々しく失敗してしまう。新『犬神家の一族』もマニエリスム復帰失敗の系譜に連なる映画かもしれない。

市川崑の作品は様式美(マニエリスム)こそが見どころなのであって、ということはキャスティングをミスしてしまうと終わりだということです。尾上菊之助はミスキャストだ。松嶋菜々子はさらに救いようもなくミスキャストだ。どんなに岸部一徳や萬田久子が地味にいい演技をしていてもダメだ。ダメなものはダメだ。

市川崑『犬神家の一族』(2006・日)

脚本について。
プロット自体は、まさに精神分析学的な〈症候〉をテーマとしている。他者の欲望をそれと知らずに欲望する人間のすがた。今は亡き犬神佐兵衛の欲望を、それと知らず娘・松子が欲望し実現していく。まるで自分ではないように、同時に自分(母)であるために、殺人を犯す。フラッシュバックする父の顔。抑圧の主体を憎悪しつつ、娘はその欲望を達しようとする。

物語の中心には佐兵衛の欲望があるのだ。しかしこの映画でその深さ/闇はよく描かれない。老いた神社の神官(大滝秀治)のわずかな言葉の中にほのめかされるだけだ。なぜ、佐兵衛の欲望が曖昧なままなのか。
たしかに物足りなく感じなくもないが、市川崑はあえてそのようにしたとも思われる。物語の中心には佐兵衛の欲望がある。しかし、あくまで主役は生者なのだ。欲望の起源は常に曖昧なまま、あるいは空虚なまま、宙吊りとなる。

精神分析とはそういうものだ。金田一は分析医のような立場にいる。彼は汽車を乗り継いで那須に来たわけだが、すべての殺人は佐兵衛の欲望どおり起こってしまう。
探偵物語とはそういうものだ。一度起動した欲望は完結するまで駆動し続ける。探偵(分析医)はそれを事後解読するしかない。
市川崑はこの原則に忠実だ。この点がハリウッド的論理とは異なるところだと思う。ハリウッド映画に分析医は登場しない。ハリウッドにおける分析医は、批評家である。

市川崑『犬神家の一族』(2006・日)

ちょっと気になった点を3つばかり。

1.中盤、金田一と古館弁護士とが事務所で会話するシーンで、壁の振り子式時計が動いていないのがどうしても気になる。
2.米軍払い下げのジープのナンバープレートがあからさまに現代のもの。本当だったら、草色地に黒文字(輸入車の場合)か黒地に白文字(事業車の場合)であるべきはず。
3、あんなモーターボートが、あの当時(舞台は昭和23年だ)あるわけない。

いろいろネガティヴなことを書きまくったけれども、いつかテレビでやっていた稲垣吾郎の金田一よりはずっとマシだ。比較するのも失礼だろうが。

『犬神家の一族』公式HP

犬神家の一族 (2006/日)

製作 黒井和男 / 一瀬隆重 / 近藤邦勝 / TBS
監督 市川崑
脚本 市川崑 / 日高真也 / 長田紀生
原作 横溝正史
撮影 五十畑幸勇
美術 櫻木晶
音楽 谷川賢作 / 大野雄二
特撮 橋本満明
編集 長田千鶴子
助監督 手塚昌明
録音・調音 大橋鉄矢
配給 東宝
出演 石坂浩二 / 松嶋菜々子 / 尾上菊之助 / 富司純子 / 松坂慶子
   / 萬田久子 / 葛山信吾 / 池内万作 / 螢雪次朗 / 永澤俊矢
   / 奥菜恵 / 深田恭子 / 石倉三郎 / 尾藤イサオ / 岸部一徳
   / 大滝秀治 / 草笛光子 / 三條美紀 / 三谷幸喜 / 林家木久蔵
   / 中村玉緒 / 加藤武 / 中村敦夫 / 仲代達矢
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2006年12月05日

Irena Wilkosz

zonder titel 01,1988年
zonder titel 01,1988年

zonder titel 04,1990年
zonder titel 04,1990年

zonder titel 05,1990年
zonder titel 05,1990年

zonder titel 14,1995年
zonder titel 14,1995年

zonder titel 28,2000年
zonder titel 28,2000年

Irena Wilkoszという画家の作品。オランダ在住の作家らしいけど、詳しい経歴はわからない。HPがオランダ語なので読めないです。まだ日本ではほとんど知られていない画家だと思う。
レメディオス・ヴァロとルネ・マグリットを足したような幻想的で不安な心象画・風景画を得意とする。「zonder titel 01」なんて、あからさまにニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』の綱渡り師の場面ではないだろうか。
 
ラベル:イメージ 絵画
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2006年12月03日

「訴えたいことが、ないんです。」by 鳥肌実

鳥肌実(? - )
鳥肌実(? - )

え〜、鳥肌実って誰?と初歩的な質問をされましたので、ごく簡単に略歴を。
いちばん詳しいのはwikipediaの項かな。

鳥肌 実(とりはだ みのる)は、日本のお笑い芸人。演説家。ことり事務所所属。
右翼的な言動・ビジュアルを中心に多彩な芸風を持ち、「皇居に向って敬礼」、「欲しがりません勝つまでは」、「ニイタカヤマノボレ」などと書かれた通称「玉砕スーツ」を着用して全国(南樺太から尖閣諸島まで)で活動をしている。 たまに、路上で意味不明なダンスやパフォーマンスをしたり、全裸になり局部を露出する事もある。(以下略)
芸人です、この人は。最近『タナカヒロシのすべて』という映画に主演しております。ときどき端役で映画には出ておりますが、やはり芸人です。決して、反共主義者でも右翼でもございません。
なぜ演説という形式のパフォーマンスをしているのかといえば、本人がこう言っている通りだと思われます。「訴えたいことが、ないんです。メッセージのない演説家でございます。自己紹介は得意でございます。好感度を、上げたいんです。」

どんな芸風かといえば、Youtubeでも相当数アップされているのでそちらを見てください。ぼくのお気に入りの動画はこちらです。お得意の演説ネタではありませんが「鳥肌実的生き様」がよく表れている良動画です。


 
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趙之家&白玉屋新三郎

「酸辣湯麺」@趙之家

「やわらか炒麺」@趙之家

ともちゃん@趙之家

クリスマスの準備で天神などをぶらり。まずお昼ご飯は『趙之家』で。

このお店、やっぱりスープが美味しいんだと思う。あゆむさんの「海老入り天津飯」(大き目の海老がごろごろ入っている)についてくるスープもほのかにショウガの風味を感じるものの、白湯がそもそもウマい。臭みもなくクドクもなく塩梅もちょうどいい。だから麺類などもハズレがない。

「酸辣湯麺」はいつ食べても美味しい。かなり細めの中華麺を使っていて、かん水臭はゼロ。大ぶりのどんぶりになみなみと入れられてくるので男性でもお腹いっぱいになるはず。香酢の香りが食欲をそそるねえ。ほどよいスープのとろみで暖まります。
「やわらか炒麺」は少し太目の中華麺で。オイスターソースが麺の表面に「染みついている」感じ。ソースが絡まっている状態とは違うんだよね。多分、適量な調味料(これが微妙なんだと思う)をかなりな火力で処理しないとこの状態にならないはず。ウマイ。

セットでつけてもらった「ミニ麻婆丼」は牛肉を使っていました。少し贅沢。「黒胡麻杏仁豆腐」は杏仁の風味と黒胡麻の風味が、バラバラなようでまとまっているような、ちょっと不思議な味。

「ゆず湯白玉」@白玉屋新三郎

「赤玉ぜんざい」@白玉屋新三郎

「雪見白玉」@白玉屋新三郎

大丸でひと休み。『白玉屋新三郎』で白玉団子を食べる。ともちゃんが気になっていたお店だとのこと。

このお店、熊本は氷川町に本店があるらしい。まったく知らなかった。「赤玉ぜんざい」、「ゆず湯白玉」、「雪見白玉」を食す。こりゃあ、たしかに美味しい。
主役の白玉が非常になめらかで甘さも上品。白玉粉を石臼挽きで製しているのだそう。もうひとつの驚きが玄米きなこの美味しさ。驚くほど肌理こまかい粉で、ふわふわしている。香ばしくて、だけど本来のきな粉みたいな豆の匂いがないので食べやすい。粉の甘味、(たぶん)和三盆の甘味、アクセントのお塩。これも石臼で挽いているんだろうか。器も素敵。

もう少し落ち着いた場所で食べれたらもっと美味しいだろうなあ。光明禅寺や友泉亭あたりでこれが出たら、日がな一日居座ってしまうでしょう。
 
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2006年12月02日

デトロイト・デトロイト

Detroit
Detroit

ciscoを巡回中に発見した最近のデトロイト・フォロワーの作品です。もちろんすべて試聴可。少しでも「デトロイト」とは何か、知っていただくと嬉しいです。

Convextion『Convextion』Convextion
Convextion

LP 2
Down Low
2006-11-29

Convextionというプロジェクト名もGerard Hansonという固有名も、まったく記憶にない。90年代半ばにMatrix Recordsからリリースしていたらしい。『Mix-Up vol.5』のリストを確認したら、たしかに使われている。デリック・メイが使ってたのか。こんなにクォリティが高ければ、どこかで記憶に残ってそうなもんだけどな。精進が足りない。
ダビーでミニマル。ミニマルといっても、クリックではなくハードミニマルでもなく、デトロイトをミニマム化させた音。残響が非常に美しそう。エレクトロニカ好きにもオススメできます。真冬にこんなアルバムをホームリスニングしてるなんてクールでしょ。
なにはともあれ買い。世界限定500枚らしいので、ピンときたひとはすぐに買い物かごへ。迷う暇なし。

Vince Watson『Renaissance Ep』Renaissance Ep
Vince Watson

12"EP
Planet E
2006-11-30

グラスゴーを拠点として、RotationやIngomaからデトロイティッシュな作品をコンスタントにリリースしているVince Watson。今作はPlanet Eから。さすが名門からのリリースだけあって、これは試聴しても美しいです。音色キラキラ、ビートはスムーズ。このメロディーの美しさと叙情性がデトロイト。夜、車の中でずっと聴いていたい音かも。

Los Hermanos『Influence E.P』Influence E.P
Los Hermanos

12"EP
Los Hermanos
2006-10-05

Rolandoが抜けてしまったLos Hermanos。でもほとんど作風は変わらず。やっぱりGerald Mitchelがメインのプロジェクトってことか。
いわゆる第一世代のお歴々の時代から伝統的に、ラテンをエレクトロニックに表現すること、ラテンの軽快さとディプン・ドープなビートが同居する独特の感覚がデトロイトの一つの特徴ではあるけれど、その良き伝統を継承しているのがこのプロジェクトだと思う。

Repeat Orchestra『The Making Of』The Making Of
Repeat Orchestra

12"EP
Real Soon
2006-06

Stefan Schwanderのプロジェクト、Repeat Orchestra。正直よく知らない。どっちかっていうとディープハウスっぽいかも。Moodymannあたりによく通じた漆黒のジャズ・フレイヴァーがぼく好みです。
ジェフ・ミルズがこのトラックを回しているそうだけど、どういう展開で使ってるんだろう。ちょっと気になる。

Chizawa Q『Asia 4  Panther』Asia 4 / Panther
Chizawa Q

12"EP
R&S Records
2006-09-27

じゃあ、日本人でデトロイトやってる人はいないかっていうと、たくさんおります。そりゃあもうたくさん。
かつて「RemixTrax」なんて素晴らしいコンピがあったけれども、あれでデトロイトに開眼されて現在DJやってますって人、かなり多いはず。おそらくこのChizawa Qって方もそのクチじゃないだろうか。オーソドックスなデトロイト。もう少しひっかかりも欲しい。新生R&Sからのリリース。
 
posted by Dr.DubWise at 23:17| Comment(0) | TrackBack(0) | sounds | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

わたくしが内閣総理大臣に当選した暁には、巨大な戦艦を作ります。




すいません、Youtubeばかりで。
あまりにバカバカしく、かつエクセレントなので貼っておきます。深い意味も政治的な意味もございません。ただ、昔からギレン総帥が好きだっただけで・・・(ぼくは、ただ『ギレンの野望』をやりたいがためにセガサターンを購入してしまった前科モノです。)

鳥肌実の演説会、一度行ってみたいんです。でもコワイので誰か一緒に行きませんか?

鳥肌実公式HP
 
posted by Dr.DubWise at 01:39| Comment(0) | TrackBack(0) | favorites | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

メロトロンって知ってます?





またまたYoutubeを散策中に貴重な動画を発見。メロトロンの構造とテープ交換の様子です。はじめて見た・・・

メロトロンを知ったのは、Roxy Musicのファースト・アルバム。まだブライアン・イーノが在籍していた頃で、というかこのアルバムに限っていえば「イーノの作品」じゃないかってくらいイーノ色。イーノの訳のわかんないシンセやエフェクトに混じってメロトロンの音が聴けます。
ちなみに、キング・クリムゾンもユーザ。『クリムゾン・キングの宮殿』の「エピタフ」で聴けるストリングス音は、メロトロンの音デス。

発音原理は原始的だけど、開発されたのは1960年代。あんまり古い楽器ではない。マイナーだけど、好きな楽器。

ちなみにこの解説をしているのは、安西史孝。知る人ぞ知る1980年代のテクノポップを裏で支えていた職人さんです。実は彼、アニメ「うる星やつら」のBGMを作ってた方でもあります。「うる星やつら」のBGM集はテクノ好きな人にもあまり顧みられることがないのですが、非常にクォリティが高い。テクノの歴史を洗っている人にオススメです。(amazonでは見当たらないので、欲しい方は中古のレコ屋を掘ってみてください。比較的手に入りやすいと思います。)

Roxy Music『Roxy Music』Roxy Music
Roxy Music

Virgin
2000-03-14
ASIN: B0000256KG
by G-Tools


キング・クリムゾン『クリムゾン・キングの宮殿 (ファイナル・ヴァージョン・紙ジャケ仕様)』クリムゾン・キングの宮殿 (ファイナル・ヴァージョン・紙ジャケ仕様)
キング・クリムゾン
WHDエンタテインメント
2006-02-22
ASIN: B000E1KN5W
by G-Tools

 
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2006年12月01日

谷沢永一 『書物耽溺』

 
闘う書誌学者・谷沢永一が、堀口大学の『月下の一群』についてこんなことを書いている。

ところが『月下の一群』には格別の稀覯本が作られている旨を佐々木桔梗が伝えている。『月下の一群』にはまず二部本がある。初版のうち、訳者および刊行者用として各一部宛、特染バックスキンで作った総革装の贅沢本である。訳者本はくすんだ銀鼠色に近い染のもの。市販本同様図柄が背や平に金箔で押され、純金による三方金であるという。
七部本も初版のうちで、和紙表紙に和紙刷である。長谷川潔画伯の挿絵作品中の花と瞳の図が表紙にあしらわれ、外函も同じデザインで、極めて清潔な然も軽い書物として仕上げられている由である。私は未だかつて古書店の目録で見かけたことがない。せめて書映だけでも心ゆくまで眺めたいものである。
『月下の一群』は大正14年、第一書房刊、限定1200部。ただ、まだ市場には結構出回っていて、コンディション極良で20万円前後だと思う(それでも稀覯本であるのに間違いないが)。
しかしこの豪華二部本と七部本ははじめて聞く。『月下の一群』の2刷目は和紙装だったと思う。七部本はそのプロトタイプ的なものなんだろうか。

ぼくも本好きだけど、もっともっと精進して、谷沢永一師のような書痴になるのが夢です。
この『書物耽溺』も書物(とくに「雑書」)に対する愛に満ちていて、素晴らしい。どのテキストも紙を無駄にしないように目一杯文字が叩き込まれている。すごい情報量。濃いです。

谷沢先生、「新しい歴史教科書をつくる会」のノータリンたちとあまり激しくケンカしないようにしてください。長生きして、たくさん本の本を書いてください。

谷沢永一『書物耽溺』書物耽溺
谷沢永一

単行本: 238ページ サイズ (cm): 19 x 13
講談社
2002-08
ASIN: 4062110962
by G-Tools

 
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Amazing Drums !



Youtubeを散策中、すごいプレイを発見。凄まじいな。
あまりに感動したので、とりあえず貼りつけておきます。ついでにflvにでもダウンロードして永久保存しちゃってください。
使用しているのはAlesisのHR16というドラムマシン。中古で数千円くらいのマシンです。

これ全部ひとりの指で音出してるんだぜ!
刮目してください。
 
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2006年11月30日

ハーフェズ・アル=アサドについて。

パルミラ遺跡(シリア)
パルミラ遺跡(シリア)

なにかと北朝鮮情勢が急を告げているわけだけれども、内戦状態になったイラクはもはや注目されることが少なくなってしまった。イラクはイラク戦争後わずか3年で世界の周縁に追いやられてしまった。周縁化されるということは不可視化されるということであり、〈帝国〉にとって不可視化されたエリアとは、放置するも蚕食するも思いのままな、まさに〈餌場〉である。

+ + +

イラクとシリア、26年ぶり国交回復…合意文書に調印

【カイロ=長谷川由紀】イラクのゼバリ外相は21日、1980年に断交したシリアとの国交を完全に正常化したと発表した。
ゼバリ外相が同日、イラク訪問中のムアッリム・シリア外相と合意文書に調印した。
調印後の共同記者会見で、ゼバリ外相は、「治安担当者による会合開催などで合意した」ことを明らかにした。隣国シリアとの関係正常化は、イラク国内の武装勢力への補給路と見られる対シリア国境の警備強化などを通し、治安情勢の改善につながることが期待されている。ムアッリム外相も「過去の非難にこだわらず、あらゆる分野で協力する」と約束した。
ブッシュ米政権内には、宗派抗争の激化でイラク情勢が泥沼化する中、シリアとの対話を含めたイラク政策見直しの機運が広がっている。シリアにはイラク政府への協力姿勢を示すことで、欧米諸国との関係改善につなげたい思惑もある。
イラク、シリア両国は、イラン・イラク戦争(1980―88年)でシリアがイランを支持したことなどから対立し、80年に断交していた。(2006年11月21日)
シリアとイラクが復交したとは、時代の流れではある。
もともとバアス党独裁の国家といえば、シリアとイラク以外なかったがシリア・バアス党とイラク・バアス党は長く不和であった。とくにイラン・イラク戦争の際、シリアがイランを支持したことにより決定的になった(シリアの故ハーフェズ・アル=アサド大統領とイラクのサッダーム・フセイン前大統領は個人的にも仲が良くなかった)。
イラク戦争後イラク・バアス党は追放され、世界でバアス党が政権を担っているのはシリア以外になくなってしまった(それも建前であって、実際にはシリアの権力中枢はアラウィ派が握っているわけだが)。

ぼくはシリアという国のことをよく知らなかった。というよりも知りえなかったというのが正しい。せいぜい知っていたことといえば、シリアはアメリカにテロ支援国家と名指しで非難されていて、イスラエルとはゴラン高原をめぐって紛争を起こしていて、地域軍事大国で、バアス党の一党独裁の国で、首都は古都ダマスカスで、アサドという独裁者がいる国。このくらいだった。
バアス党についてもよく知らなかった。イスラム教と社会主義が混じったような・・・、そんな漠然としたイメージだった。

+ + +

で、夏目高男の『シリア大統領アサドの中東外交』を読む。もともとイラク情勢を考えるための副読本という位置づけで読み始めたんだけど、これがかなり面白い。体裁は純粋に国際政治分析を行った論文集なんだけど、かなり詳細。ハーフェズ・アル=アサドという為政者の人物像をここまで包括的にかつ詳細に論じた本は、おそらくこれまで日本語で書かれたことはないだろう。筆者の夏目高男は現バーレーン大使で、アラブ情勢のプロフェッショナル。

筆者は故アサド大統領の政治・外交スタイルをこのように分析している。

1.一貫性の追求
2.知的、冷静、慎重、周到な準備と情勢の段階的な処理
3.和平に対する妨害要因としての重要性
4.外交目標の限定、目標に即した手段の採用
5.バランス感覚、国内、アラブ世界でのコンセンサス重視
6.心理作戦の多用
7.危機、限界を好機として捕捉
8.強硬な主張と現実的対応、硬軟・和戦両用、瀬戸際政策
9.テロ・脅しの多用
10.保守的な独裁者
11.政敵の執拗な除去
12.反対勢力の容認とその分裂・分断
13.名誉への固執
14.聞き上手、論理的主張、約束の履行
15、勤勉、家族的、陽気で、ジョーク好き
各項ごとに的確な分析がなされていて、とても興味深い。現在の北朝鮮情勢とも通ずるものが多々あるはずだ。
さらに20世紀末、中東の地域大国であった2国を治めた故アサド大統領とフセイン前大統領とを比較している。共通点とともに相違点もあるわけだが、そのなかで大きな違いのひとつとして「限界の認識」をあげている。

サッダームは限界を思い知らされ、政策決定がそれにより大きく歪められた。アサドは自分の限界を知っており、限界の中で行動したばかりか、限界を最大限活用した。アサドの野心はレバノンの征服やアラウィの支配の継続など限られた目標に限定されているのに対し、サッダームの野心は天井知らずで、イラクおよびアラブでの最大の英雄、できれば国際的指導者たらんと望んでいる。
とくにシリアは、イスラエル、イラクと対立しただけではなく、エジプトや他のアラブ諸国、アメリカ、PLO、ムスリム同胞団とも対立してきた。ほとんど周辺を敵に囲まれてきたわけだ。
故アサド大統領にとって、この状況における「自国(すなわちアサド自身)の限界」と「敵の限界」の見極めは自国の生き残りにとって死活のものだった。そのためのインテリジェンス・システムである。

昨今(とくに9・11とイラク戦争以後)、インテリジェント・システムの重要性が指摘されているけれども、それは「限界の認識」を得るためだ。アメリカはイラクにおいても対テロ戦においても、そこを理解し損ねている。シリアの「限界の認識」は、インテリジェンス・システムによってつねにフィードバックされ維持されてきた。アメリカのインテリジェント・システムは世界で最も高度で洗練されているが、それを使って「アメリカの限界」を積極的に提言しないし、そもそも分析しようとしない。

+ + +

2000年、ハーフェズ・アル=アサド大統領は心臓発作で死去し、その跡を次男であるバッシャール・アル=アサドが継いだ。バッシャールは元眼科医で温厚な性格であるという。周辺の官僚機構はハーフェズ時代と変っていないが、おそらく今後10〜20年でシリアも、エジプト同様の「普通な国家」へとゆるやかに変化していくだろう。そのとき、域内バランス(とくにイスラエル-パレスチナ-レバノン-シリア)がどう変わるか、注視しなくてはならないだろう。

バアス党の歴史から現代中東史を俯瞰するのも興味深いテーマなんだけれども、またいずれ。

夏目高男『シリア大統領アサドの中東外交1970‐2000』シリア大統領アサドの中東外交1970‐2000
夏目高男

単行本: 246ページ サイズ (cm): 21 x 15
明石書店
2003-04
ASIN: 4750317063
by G-Tools

 
ラベル: 読書 中東 シリア
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